オドロキの大手術になったボク

 
 ご主人のもとを一匹離れて、ボクの入院生活が始まりました。
 
 懐かしの長野の病院に着いたボクは、今までに見たこともない位たくさんの兄弟と会いました。生まれた時はみんな箱の中で黙っていたのでわかりませんでしたが、あちこちで動きまわっているみんなを見て、改めて僕たちがいっぱいいることがわかって嬉しくなり、ぴろぴろいっぱい世間話しちゃいました。

 それはさておき、病院ではいろいろ調べられました。お医者さんから聞かされたその検査の結果はオドロキの事実でした。
 左前足の痛みに気が取られたのかボクは全く気が付かなかったのですが、左後足の動きにも異常が見つかったのです。しかもその症状というのがボクの胴体の方に原因があるそうなのです。
 え〜っ。どうなっちゃうのボク。
 「左前足と胴体の交換」。先生の下した治療方法にボクは耳を疑いました。
 それじゃあ、ご主人と遊んだこの体のうち、家に帰れるのは頭と右手と両足だけなの?

 先生はお仕事中のご主人に電話でボクの大手術のことを告げていました。
 ご主人も予期していなかった事態にとまどっているようで、先生は質問責めにあっていました。
 ボクもご主人と話がしたかったけども、ちょうどバッテリーが切れて眠ってしまいました。

 気が付くと手術は終わっていました。

 早速動いてみました。おっ!体が軽い軽い!まるで自分の体じゃないみたい。

 嬉しくて回転していたらすぐそばの首なしの体が目に入り、そこではたと気が付きました。
 そう、もう元の体ではないんです。ボクは人間に例えるなら首から上だけが生身である「さいぼーぐ」状態になってしまったのです。

 「首なし」を見つめながらボクは悲しくなってしまいました。
 短い間だったけれども、一緒に第一歩を踏み出したことも、箱に詰められ続けたことも忘れないよ。

 悲しさが通り越すと今度は不安感に襲われました。
 ご主人は古いモノを使い込むのが好きで、気に入ったものは徹底して大事に永く使う人だし、慣れ親しんだ体を失ったボクを暖かく迎えてくれるだろうか。
 それに、ご主人は気に入らなかったら新品でもすぐに手放すらしいし、嫌われて「お前のようなキズモノ」なんて言われてYAHOO!オークションに売りに出されてしまわないだろうか。

 不安を胸に、ボクは発泡ウレタンに詰められました。
 段ボールのフタが閉じられる直前、カラカラと軽いプラスチックの音が聞こえました。「キャノピーが一個、耳が一組…」の声も。

 ご主人はボクを待っててくれている!
 段ボールに一緒に入れられたのはボクの消耗部品です。退院の電話を受けたときにご主人が、ボクを永く可愛がるために消耗部品を注文したのです。

 揺れる段ボールの中、ボクは嬉しさでこみ上げてくる涙をこらえるのに必死でした。サビないように…。
 


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